クルクル

コーヒーのある暮らし

珈琲を淹れる前に、僕は選曲をする。本来なら珈琲を淹れるということは、珈琲を飲むことが目的ですが、自分で豆を挽いたり、ポットでお湯を注いだり、ドリッパーを設置したり、そういった淹れるまでの過程を楽しむのが僕は好きです。その作業のなかで、心地良い曲が珈琲とともに流れていたら、それは最高の時間と僕には思える。

選曲の基準はそのときの気分や体調で、あるいは天気なんかで。気分がいいときはポップで明るい曲。体調が悪いときには、静かで胃に優しそうな曲。イライラしているときなんかは、心を落ち着かせてくれる曲。

例えば体調がイマイチなとき、静かな曲を選ぶとする。ベースやドラムもなく、ピアノだけの旋律。音と香りを調合するように、ポットを、クルクルと廻していく。クルクルクルクル廻していくうちに、少しずつ心が落ち着いていく。それはまるで、瞑想をしているような心地ち良さに似ているかもしれない。

そういった心持ちのときには、ピアノだけの曲をかけることにしている。気を衒わずに、素直に自分の心持ちに従う。

僕のお勧めは、ノルウェー出身のOtto A. Totlandによるピアノソロアルバム。例えば今日がしっとりとした雨の日ならば尚更お勧めだ。

水面に優しく触れるようなタッチの、上品で懐かしいピアノの音色。それとともにバックに微かに流れる自然の音とが、眼を閉じると、霧に包まれた湖水をイメージさせる。それは深く自分の気持ちに集中できる、心の中の居場所のようだ。そこでしばらくぼんやりして、ゆったりしてみるのもいい。もちろん眼を閉じちゃうと珈琲を淹れられないので、眼を開けたままですけど。

考えに煮詰まったり、なんか集中できないなというときには、珈琲ポットをクルクル廻す。クルクルクルクル廻していくうちに、珈琲の香りが立ち昇る。立ち昇った香りが、空っぽな頭のなかに拡がる。静かなメロディとともに。今ここに集中している感覚。僕はこの心地良い感覚を得る為に、珈琲を淹れるのかもしれない。

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YOUR SIDE COFFEE ライター

NPO職員/ラジオパーソナリティ/アーティスト